東京 藤川祐
トイレで、幅吐物と一緒に人生をも流れているのを見ながら、あんなに苦労して稼いだ金が、便器の中に吸い込まれている事実に呆然とする。私はもう一三年間、ブリミアビンジパージ(過食幅吐)を繰り返しながら生きている。そして、今も二一0キロ台で確実に死に向かって、飢え渇いている。もちろん、わざと自分からこんな状態になっている訳ではない。病気が私を殺そうとしているのだ。本来の自分の姿を求めて泣き叫んでも、別の大きな力が私をつき動かし、耳元で「やせろ!」とささやきかける。やせ願望も、やせた体も、吐くのも、もう本ッ気で嫌だ日全てをハイヤーパワー(※)に引き渡し、もう一度大地をしっかりと両足で踏ん張って、足の裏に自然の流れを感じてみたい。そしてひっそりと力強く生きてみたい。二四時間三六五日、私は病気に脅かされながら一三年戦ってきた。朝起きたら、すぐに過食幅吐のスイッチが入っていて、まだ眠い体にムチ打って食べ物を貿いに走り回らなければならない日も、めずらしいことではない。廃人である自己をしっかりと認識している。それでも私は少しずつ、自分を好きになっている。右手で仕事をして、左手で病気と戦ってきたパワーは並大抵ではない。小心者で、大胆で、真面目で、根性もある。強くて、弱い。ただ、普通に食事が摂れないために瀕死の状態になっているだけだ。私から全てを奪い取る、この病気がなければ、かなりいい線いっている奴だと思う。しかし、やせや過食を通して自分の苦難な道をなぐさめ、自己憐倒を繰り返し、この肉体と魂を守ってきた事実も受け入れなければならない。廃人である現実の、今の等身大の自分もやっと愛せるようになってきたこの頃だ。だからこそ同じ地獄を味わって互いに生き残ろうと、ピュアに生きてきたNABAの仲間を愛さずにはいられない。変えられないものを受け入れ、変えられるものを変える勇気を持って、早く先行く仲間になって、後から歩んで来た仲間に伝えていきたいと、最近はじめて思うようになった。
※ハイヤーパワー:「人知を越えた偉大な力」個人の意志の力ではどうにもならなくなった問題を、人間のコントロールを越える”力”を信じ、それにゆだねていくことが依存症からの回復に必要とされる。